著者近影

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Profile

結城充考(ゆうきみつたか)

1970年、香川県生まれ。
2004年『奇蹟の表現』で第11回電撃小説大賞銀賞を受賞。
08年『プラ・バロック』で第12回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。

著書に『エコイック・メモリ』『衛星を使い、私に』『躯体上の翼』『クロム・ジョウ』など。

代表作と、その作品についての思い

『クロム・ジョウ』

常に、代表作を更新するつもりで執筆しています。
現在最新作となる『クロム・ジョウ』について。

個人的に、「小説」という媒体も最終的には映像表現を目的とする、と考えています。
言葉の連なりから読者が映像を想起して、物語が進行するものであると。

当然、個々人の持つイメージが完全に一致するはずはないのですが、たとえ映画、TVであっても(クオリア云々を持ち出すまでもなく)、結局は視覚から入力された光情報を個人の脳の中で映像として再構成している、という事実には変わりないわけで、これ等の媒体を全く同一のものとするつもりはありませんが、やはりいずれも「映像的」ではあるのだと思います。

小説から想起する映像には「フレーム(枠)」がありませんから、より正確には「小説空間」とでも呼ぶべきものでしょう。
クロム・ジョウ』は今のところ、僕の小説の中で、もっとも豊かな小説空間を構築できた作品であると自負しています。

結城充考のすべての作品はコチラ

結城充考の本棚

もちろん、お薦めしたい本はまだまだあるのですが……取り敢えず、本棚を振り返って目に入ったものを紹介、ということで。

初めて読んだ時には、内容、というよりも文章そのものをうまく読み解けず、しかし何となく再読した際、まるで悟りを開いたかのように理解することができた、という一冊です。

すでに「港の空の色は、空きチャンネルに合わせたTVの色」ではなくなった現在でも、その価値は古びていないと思います。

世界にとっては予言的作品であり、僕にとっては、指針的作品であります。

ニューロマンサー
ウィリアム・ギブスン

ヴァン・ヘルシングは倒された。

ヴィクトリア女王は勝者ドラキュラとの結婚を強いられ、英国は吸血鬼との共存を余儀なくされる。
ロンドンでは吸血鬼だけを狙った「切り裂きジャック」事件が発生し、レストレイド警部は(切れ者でありすぎるために)監獄へ送られたシャーロック・ホームズに代わり、事態の収束を16歳の少女のまま数百年を生きる吸血鬼ジュヌヴィエーヴへ依頼する――

実在、非実在人物、オリジナル・キャラクターを混在させた、その概略だけを伝えると、まるで「僕の好きなものを集めてみました」という、少々幼稚な小説のように聞こえるかもしれませんが、実際は濃密な小説世界を味わうことのできる、格調高いハードボイルドに仕上がっています。

作品内の「新生者(ニューボーン)ではない」という一言は、全小説中(?)屈指の格好よさ。
でも絶版状態なんですよね……

ドラキュラ紀元
キム・ニューマン

歴史を下敷きにしたファンタジーとして、東にも西にもこれを上回る作品はないのではないか、と思える小説です。

三十年戦争における傭兵の有り様、風俗、金融、錬金術、戦闘……多数の要素を高い密度で組み合わせて幻想的な世界を構築しており、たとえば主人公アディと少女ユーディトの出会いの場面だけを抜き出してみても、その執筆感覚の鋭さは注目に値します。

アディは擦れ違い様に、風で飛ばされた少女の頭巾を偶然手にします。
返そうとしても、少女は「地面に落として」といって直接受け取ろうとはしません。
少女は刑吏の娘であり、初対面の少年に対して自分が直接的に触れて相手の穢れとならないよう、気遣ったのでした。

「曲がり角で食パンをくわえた相手とぶつかる」などと類型化されるほど、少年と少女の偶然の出会いは何度も繰り返されてきた物語場面ですが、昇華させる技術さえあれば、これほど美しい状況を作り得るのだ、と実感させられるのです。

聖餐城
皆川博子

「それぞれが相手の全世界となって」の一文と出会った瞬間、いきなりこの小説の神髄に触れたように感じました。
後は作者に導かれるまま、「道」を歩き続けるしかありませんでした。

荒廃し無法となった世界での、純粋な親子関係を描く本作は、高い緊張感を保ったまま、それでいて静謐な物語として進行していきます。

僕自身の子供達が小さいこともあって、読んでいる間、ずっと胸を締めつけられるようでした。

ザ・ロード
コーマック・マッカーシー