著者近影

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Profile

和智正喜(わちまさき)

1989年『センチメンタル・ハイ』で小説家デビュー。

代表作にはデビュー作『センチメンタル・ハイ』(エニックス文庫)から続く、日常の中の不思議なストーリーを扱った『月影町ふしぎ博物館』(青い鳥文庫)のシリーズ、放映当時と同じ1970年代を舞台に、かつてのヒーローを現代的に再生した『仮面ライダー1971-1973』(エンターブレイン)、異端のライトノベルと話題になった『消えちゃえばいいのに』(富士見ファンタジア文庫)などがある。

小説の他にも、映像作品、ゲームシナリオ、また漫画原作なども多く手がける。

最新作は“日常の不思議”“街での冒険”にフォーカスした“街歩きふしぎ発見ミステリー”『東京怪異案内処 この街の憑り道、お連れします。』(富士見L文庫/2015/04/15発売)。
そしてもう一方の得意ジャンルであるアクション小説、異形の怪物たちが1996年の東京を舞台に激突する『エネミーズ1996』(MFブックス/2015/05/25発売)。

代表作と、その作品についての思い

『月影町ふしぎ博物館』シリーズ

いろいろ考えたのですが、児童向けに書いたこの作品を選びました。

主人公の真一という少年が、母親とともに祖父が暮らす月影町に引っ越してきます。
真一はそこで『月影町ふしぎ博物館』の学芸員と名乗るノアという謎めいた少女と出会い、彼女と一緒にこの世界の隙間に生きる“ふしぎもの”という、文字通り不思議な存在を探し、保護することになります。
その小さな冒険は父を亡くし傷ついていた彼の心を癒し、学校の友人や街の人々との友情を育ませていきます。

これは僕がずっと好きだった、日常の中にある不思議……いつも通っている道のもうひとつ先を歩いてみたら、そこにないはずの景色がある……そんな夢想を形にしたものです。

最新作の『東京怪異案内処 この街の憑り道、お連れします。』もまさにそんなテーマなのですが、これは小説に求めているものというよりも、自分の空想癖に由来するものかもしれません。

意外に思われるかもしれませんが、『仮面ライダー』を自分なりの解釈で再構成した『仮面ライダー1971-1973』という小説でも、その感覚は変わりません。
仮面ライダー1971-1973』では、原作であるテレビシリーズの放映時期である1971年から1973年を可能な限りリアルに描くことに拘ったのも、空想のヒーローも、ひょっとしたら……振り返ってみたら、そこにいるのでは? という夢想を、文章の形とはいえ、少しでも定着させられたら……という試みだからです。

また、この作品には誇らしい思い出があります。

僕自身には子供はいないのですが、友人たちのお子さんの多くがこの本を読んで、拙い言葉ながらも感想を寄せてくれたからです。
本ばかり読んでいた子供時代の自分に、ようやく晴れて「君は将来、それを書く方になれるよ」と教えてあげられる気持ちになりました。

現在、再販未定状態なので紹介は心苦しかったのですが、もしも機会があれば、是非お手にとって頂きたいシリーズです。

和智正喜のすべての作品はコチラ

和智正喜の本棚

自身の代表作として児童向け小説を紹介したこともあり、今回は作家としての自分を形作った小説を中心にご紹介したいと思います。

まずは小学生の頃、なにより好きだった『ゆかいなヘンリーくん』シリーズです。

第一作が書かれたのは1950年と古いのですが、当時のアメリカの少年のリアルな日常をほのぼのとしたタッチで描いた名作で、今、大人が読んで十分に楽しめます。
特に大きな事件が起こるわけでもなく、ヘンリーくんを悩ませるのは、せいぜいが飼っているグッピーが増えすぎた、学校で上演するオペレッタに配役されて困った……というような可愛らしい事件ばかりなのですが、子供にとっては極めて切実、そしてまだアメリカ文化に浸かっていない70年代の小学生(つまり僕のことですが)には、とても新鮮な感覚を与えてくれました。

近年、翻訳を改めた新装版が発売され、入手しやすくなりました。

がんばれヘンリーくん
ベバリイ・クリアリー

多くの児童向け小説が小学生時代の友だとしたら、さて中学生の時は……? 
と考えると、やはり平井和正さんの作品になります。

代表作となると『ウルフガイ』『幻魔大戦』ですが、ここは『サイボーグ・ブルース』をご紹介。

平井さんが原作を担当した漫画『エイトマン』のリメイク要素が強い本作は、近未来を舞台に、サイボークとなった黒人警察官が活躍するアクション小説です。
サイボーグ対サイボーグの、つまりは人ならざる超人同士の戦いを、様々なアイデアを詰め込んだアクションで描き、その魅力は今でも色褪せません。
僕はずっとアクション要素の強い小説を書き続けていますが、本作はいつまでもそのお手本であり続けてくれています。

紙の本は入手が難しいと思いますが、Kindle版が出ています。

サイボーグ・ブルース
平井和正

随分と傾向は違いますが、中学から高校時代の愛読書をもう一冊。

これは『楡家の人びと』等で知られる作家、北杜夫さんのエッセイのひとつです。
北杜夫さんのエッセイといえば最初の作品であり大ヒットとなった『どくとるマンボウ航海記』が有名ですが、こちらは旧制高校時代を回想したタイトル通りの“青春記”です。

縦軸としては旧制松本高校入学から卒業、そして父親である斎藤茂吉の死に至るまでが綴られ、同時に、同級生、先生たちの奇人変人エピソードから、戦争と死に直面する日々、バンカラ学生たちの狂躁がまさに縦横無尽に語られます。
小説ではないのですが、この作品を読んだ時の驚き、文章表現というものは、ここまで立体的な“世界”を描けるのだという感嘆が、僕の創作活動のバックボーンになっています。

現在流通している新潮文庫版は大きな書店であればほぼ確実に置かれているでしょうし、Kindle版もあります。
しかし……もしもどこかで巡り会うことがあれば、佐々木侃司さんの味わい深いカバーイラストが素晴らしい中公文庫版(1973年初版)がお勧めです。
僕はこの中公文庫版のクリーム色の表紙が茶色くなるまで読み返しました。

どくとるマンボウ青春記
北杜夫

藤森輝信さんは日本近代建築の研究家として有名なので、ご存知の方も多いかと思われます。

この本は藤森さんとその仲間たち「東京建築探偵団」が東京各所の建物を巡り、再発見していく内容です。
その部分でも大変に興味深く、お勧めなのですが、僕が今回、推したい部分は藤森さんの文章です。
独特のリズム感があり、なにより凜として品がある。
こちらの一方的な片想いですが、藤森さんの文章は僕が絶大な信頼を寄せる“お師匠様”なのです。

ちくま文庫版は今でも入手が容易です。「建築探偵」シリーズはどれもお勧めです。

建築探偵の冒険〈東京篇〉
藤森照信

青い鳥文庫で『海よりも遠く』という“ノンフィクションノベル”を書いたことがあります。
冒険家の白石康次郎さんによる“ヨット最年少無寄港世界一周”のチャレンジを、白石さんご本人の手記をもとに、児童向けの小説としたものです。

その資料のひとつして読んだのが、この『オケラ五世優勝す』でした。

著者の多田雄幸さんは白石さんの師匠にあたる方です。これはその多田さんによる自伝で、タイトル通り、1982年のヨット世界一周単独ヨットレースに出場され、優勝した時のことを中心に語られています。

天性の自由人であり、大手スポンサーがつくのが当たり前の国際レースにあって、資金は個人タクシーの収入のみ、そしてヨットは仲間たちと手作り。本当の意味で魅力的な人物とはなにかを教えられました。

ヨットレースというものは普段の興味の外にあって、『海よりも遠く』を執筆する機会がなければ読むこともなかったと思うのですが、“大事な本”という言葉を与えられた時、この『オケラ五世優勝す』が真っ先に頭に浮かびました。

現在ではなかなか入手が難しいとは思うのですが、どなたにもお勧めできる一冊です。
機会があれば是非。

オケラ五世優勝す 世界一周単独ヨットレース航海記
多田雄幸