著者近影

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Profile

仲町六絵(なかまちろくえ)

生後間もない頃、奈良の平城京周辺で育つ。
2010年、戦国時代の奈良を舞台とする短編『典医の女房』で第17回電撃小説大賞メディアワークス文庫賞を受賞。

2011年、受賞作に大幅加筆した『霧こそ闇の』でデビュー。以後、日本の歴史に基づいたファンタジー作品を発表している。

代表作と、その作品についての思い

『からくさ図書館来客簿シリーズ』

現在進行中のシリーズということで、こちらを紹介させていただきます。
舞台は京都の北白川、もう少し詳しく言うと京都大学の東側。煉瓦造りの小さな私立図書館です。

図書館長はこの界隈によくいそうな、二十七、八歳の眼鏡をかけた青年です。
その正体は、平安時代の文人小野篁。
井戸を使ってこの世とあの世を行き来し、閻魔大王の補佐をしていたという伝説が残る歴史上の人物です。

本作での小野篁は図書館長に身をやつし、「道なし」と呼ばれる心優しい霊魂をあの世へ送っています。
この篁は少々とぼけた性格で、おまけに千二百年分の人生経験を抱えています。
突っ込みを入れてくれたり、時には支えてくれたりするパートナーが必要だ、という思いから、とある実在の姫君を助手として配置しました。

今まで明かさずにいましたが、『からくさ図書館来客簿』は世阿弥が大成させた夢幻能の構造を応用しています。
まず「前シテ」と呼ばれる人物が登場してから「後シテ」と呼ばれる幽霊もしくは神仏が出現し、その「後シテ」の思いを「ワキ」と呼ばれる役が聞き出す、というのが夢幻能の基本形式です。

本作の場合、短編ごとのゲストキャラクターが「前シテ」、彼らの連れてくる「道なし」が「後シテ」、死者の願いを聞き出す「ワキ」が、冥府の役人・小野篁となっています。
この構造を基本としつつ、時々そこからずらしながら連作短編を続けています。

舞台である北白川周辺は、十代の終わりから二十代の前半までを過ごした街です。
この頃「塔」短歌会に入会したおかげで、文章の基礎が培われたと思っています。

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仲町六絵の本棚

伝統をふまえながら、他にはない和菓子を作っておられる日菓さんの品々には遊び心があふれています。

特に印象的だったのは和菓子屋さんを表現したお菓子です。
透き通った寒天の中に、真っ白なのれんと三色の団子が浮かんでいます。

現実の景色とは少しだけ違う、けれどモチーフの持ち味をしっかり表しているこの手法は、『からくさ図書館来客簿』第三集の『金魚と琥珀』という短編で参考にさせていただきました。

日菓のしごと 京の和菓子帖
日菓

この和歌集は、私にとっては愛すべき時間泥棒です。
すぐれた歌ばかりではないかもしれませんが、読んでいると昔の歌人たちに親近感を覚えるのです。

たとえば、恋多き歌人として知られる和泉式部の歌を一首ご紹介しましょう。

《人もがな 見せも聞かせも 萩が花 咲く夕かげの ひぐらしの声 》

現代文にすると、こういう感じです。
「人がいればいいのに。見せたい、聞かせたい。萩の花が夕暮れの光の中で咲いて、ひぐらしが鳴いている」

誰かとこの情景を分かち合いたい、という素朴な人懐かしさを詠んだ歌です。
もし初句が「君もがな」であれば恋歌になりそうですが、この寂しい秋の景色には「人もがな」の方が似合うと思います。

弱い夕暮れの光、小さな萩の花、カナカナと鳴くひぐらし。
この情景に身を置いて「他にも誰かいればいいのに」と思っている姿を想像すると、おくゆかしいというか、和泉式部のことが可愛らしく思えてきます。

こんな調子で一首一首、詠み手はどんな人だったのか想像を巡らせていると、あっという間に時間が過ぎていきます。

千載和歌集
久保田淳

装丁とタイトルにまず惹かれました。
そして購入の決め手は、帯の文章でした。

「日本の空に甦れ、トキ、コウノトリ、アホウドリ……。
明治末年、わずかな人数で発足した日本鳥学会。
分類学から生態学まで、わが国の鳥学をリードしてきた人々の軌跡を辿り、これからの鳥学の役割、人間と鳥の共存を問う。」

『からくさ図書館来客簿』第二集の『鳥めずる若君』は、この本がきっかけで生まれました。

野鳥が好きな方におすすめしたい本です。

鳥学の100年
井田徹治

デビューから数ヶ月経った頃、日本刀について知りたいと思い、コンパクトなこの本を手に取りました。
それまでは弓と槍が好きだったのですが、読み終わる頃には刀も好きになっていました。

からくさ図書館来客簿』の姉妹作である『南都あやかし帖』の第一話が刀剣の話なのは、この本の影響です。
現実には存在しない架空の刀の設定を考え、さらに人格を持たせるのはとても楽しい工程でした。

日本刀の構造や部分ごとの名称など、基本的なことを分かりやすく教えてくれる本です。

図解 武将・剣豪と日本刀
日本武具研究会

同じく上橋先生の著作である『鹿の王』は上下巻を一気に読んだのですが、守り人シリーズはゆっくりと来し方行く末を思いながら、何年もかけて読み進めています。

闇の守り人』では、自分がどんな人たちの意志や技術を継承していくのか、読了後にあらためて考えました。

闇の守り人
上橋菜穂子

梨木先生の著作も、十年以上かけて少しずつ、色々なことを考えながら読んでいます。

文庫版の『家守綺譚』は、ブックカバーを時々取り替えながら頻繁に持ち歩いています。
思い立った時、いつでもこの世界に遊びに行けるように。

家守綺譚
梨木香歩