著者近影

(C) 足立淳

Profile

早見慎司(はやみしんじ) 旧名:早見裕司

青森生まれ、現在は沖縄に在住。
自称:奇談小説家。

雑誌編集手伝いなどを経て、1988年、『夏街道』で小説家デビュー。
いわゆるライトノベルを書く傍ら、ふとしたきっかけで、ホラー短篇を書き始める。同時に、主として戦闘少女の映像作品をレビューする文章を書く。

代表作に、多摩近郊を舞台にしたリリカルなファンタジイ『水路の夢』(Kindle)、ホラーアンソロジー『異形コレクション』シリーズ(廣済堂文庫、光文社文庫)、ライト・ミステリ『Mr.サイレント』シリーズ(富士見ミステリー文庫)、少女アクション小説『メイド刑事』(GA文庫)。

最新刊は、実写戦闘少女映像の解説本『少女ヒーロー読本』(原書房)。今までに類を見ない映像本と評される。

代表作と、その作品についての思い

『水路の夢』

この作品は、奥多摩渓谷に旅したときにヒントを得ました。一本の川の流れについて書こうというものです。
そこで、奥多摩湖(水源)から淀橋浄水場(現在、都庁のある所)までの玉川上水を歩いてみて、ほぼすべてをロケと実際の資料を基に描きました。

その過程で浮かんできたのが「フラクタル」という概念です。
フラクタルとは何か、私もうまく説明できないのですが具体的に言うと冒頭で主人公・季里がもたれて眠っている小平霊園の樹の下には、アリの巣があるんですね。
それが霊園全体で見ると、中央に建っている高いモニュメントとその下の墓の群、という構図と似ているわけです。

更に、幻の『水』を求めて季里が都心のほうへ向かう途中で立ち寄る高井戸のゴミ焼却場の煙突と、そのほぼ直下にある短い地下街とも構造が似ていて、重要な舞台のひとつである私立高校の時計塔と、地下で発見される水と季里たち、最後に新宿副都心の超高層ビルと、その下の洞窟の構造と重なってくる——つまり「同じ構造がスケールを変えて相似形を示す」といったことです。

たわいもない遊びに見えるかも知れませんが、この構造が描けたことが私にとっては楽しい作業でした。
それと同時に、樹の下で眠っていると夢を見るというのは、中国志怪小説にある話なので、自動的に季里が闘う相手はアリがモチーフになりました。
『水路の夢』というタイトルはあらかじめ決まっていたので、物語全体は「季里が樹の下で見ている夢かもしれない」というニュアンスを込めました。

TOKON10の「東京SF大全」でも、熱のこもったレビューをいただいております。

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私は、自分をアーバン・ファンタジイの小説家だと考えています。
異世界ではない、この現代を舞台にした都市幻想小説です。

そのような道へと進むきっかけとなったのは、ふたりの偉大なる小説家の影響を受けてです。
ひとりはジャック・フィニイ。

いま読めるのは、『ゲイルズバーグの春を愛す』(ハヤカワ文庫)と『レベル3』(早川書房・異色作家短篇集)ぐらいでしょうか。
いずれもお勧めですが、中でも、『ゲイルズバーグの春を愛す』に治められた「愛の手紙」は、想像を超えた、純粋な恋の物語です。
このような端麗なアーバン・ファンタジイは、他の誰にも書けないでしょう。それ以外の短篇も、美しい幻想に彩られています。

ゲイルズバーグの春を愛す
ジャック・フィニイ

もうひとりの心の師匠は、内田百閒。
夏目漱石の弟子で、漱石の『夢十夜』にも通ずる、幻想的な短篇やエッセイを書きました。

短篇の代表作と私が考えている「とほぼえ」は、アンソロジー『名短篇、さらにあり』(ちくま文庫)に収められています。
さりげない日常の会話が、やがて、予想もつかない幻夢へと読者を誘います。
他にも、岩波文庫の『冥途・旅順入城式』などがお勧めです。

名短篇、さらにあり
北村薫・宮部みゆき

短篇ばかりですが、AmazonのKindle本を読める方は、小川未明『大きなかに』などはいかがでしょうか。
この本、0円なんです。

叙情的な児童文学作家と思われている小川未明ですが、『赤いろうそくと人魚』のような、ホラーに近い物語を書いています。
大きなかに』は、中でもホラー色が強く、どこまでが真実でどこまでが幻想なのか分からないような、熱に浮かされたようなできごとの連続が、(少なくとも私にとっては)怖ろしい結末を迎えます。
Kindleの他に、青空文庫でも読むことができます。

大きなかに
小川未明

「なるべく多く・色んなジャンルに亘って」紹介して欲しいというご希望でしたので、もう少し挙げてみましょうか。

木下是雄『理科系の作文技術』(中公新書)は、理科系に限らずすべての人が参考にするべき、文書技法の本です。
ごくシンプルな構成で、人に通ずる文章を書く方法を教えてくれます。

理科系の作文技術
木下是雄

最近「はまって」いるのは、時代劇/映画史研究家・春日太一さんの一連の著作です。
ここでは、特に優れていると思う『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮選書)をご紹介しておきます。

最近は、テレビでも時代劇を見る機会がすっかり減りましたが、この本ではその理由と将来への提言が、心血を注いだ文章で語られています。
たとえば「火野正平がいない」といった文章に心が動く方は、ぜひ読んでみるべきです。

なぜ時代劇は滅びるのか
春日太一

私は、本格ミステリ作家クラブにも入っているので(ライト・ミステリしか書いたことはありませんが、読み手として)、ミステリも挙げておくべきかもしれませんね。

レイノルズの『消えた娘』(新潮文庫)は、母と娘が旅の途中で立ち寄った街で娘が理由も分からないまま姿を消し、母親がその街の公園で、消えた娘をいつまでもいつまでも待ち続けるという異色のミステリです。
不可思議な味わいを持っています。

消えた娘
クレイ・レイノルズ

国内のミステリでは、私はファン倶楽部の代表もやり、先のリンクの所にも書いた横溝正史をお勧めします。

獄門島』(角川文庫)は、日本ミステリのオールタイム・ベストテンで常に一位をキープしている、美しくもおどろおどろしく、かつ合理的な謎解きの物語です。
Twitterなどを見ていると、初めて横溝正史作品を読んだ、という方には『夜歩く』や『八つ墓村』(共に角川文庫)が人気の模様です。

獄門島
横溝正史